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顧客の声を拾う 感情分析編

ビジネスにおいて近年、これまで人間が膨大なコストをかけていた業務効率化や最適化・予測などをAI(人工知能)が代替しつつあります。
特に自然言語処理を利用した新規事業や業務効率化の事例は諸外国を中心に報告されています。

本連載では自然言語処理の様々な機能を使用した海外発ビジネス活用事例を紹介します。

自然言語処理とは

グラフ

自然言語処理とは、我々が使用している言語をコンピューターが認識し、処理する技術のことです。AIによる自動電話応答、学習による予測変換などに利用されています。

本連載では、自然言語処理の中でも感情分析、固有表現抽出、文章分類・クラスタリング、自動要約・翻訳、質問及び対話型チャットボットについて取り扱います。自然言語処理でできることを知り、AIを使用する新規事業のヒントに、自社でのAI活用の参考に、本記事をご活用ください。

第一回ではマーケティングなどでよく使われる手法の一つである感情分析について、その技術の中身と活用事例を紹介します。

感情分析とは

感情分析とは、コンピューターが文章や単語を認識し、前向きか、後ろ向きか、中間のどの感情を有するか分析するツールです。Forbesによれば、新型コロナウイルス感染症の流行による旅行業界へのネガティブな反応と株価下落、およびワクチンの登場による旅行再開の期待を込めた株価上昇との関連が知られています。

技術的には、以下2つのアルゴリズムを混合して使う方法が主流となっています。

①Rule-based approach

予め人間が辞書のように単語とそれに紐づく感情を登録し、そのルールに則って感情を判定するアルゴリズムです。シンプルですが、 柔軟性がなく誤判定を引き起こすリスクがあります。(例えば、「甘い」という単語は、「甘いお菓子」「甘い誘惑」など複数の意味を持つため、この単語だけでは判定は難しいですよね。)

②ML-enabled automatic approach

機械学習を用いて①のアルゴリズムを発展させ、文脈を読み取れるように改良したアルゴリズムです。ナイーブベイズ法や線形回帰、回帰ニューラルネットワーク、サポートベクトルマシン(SVM)分類器などを使用し、単語・文章の関係などを学習し、できるだけ人間の感情を読み取るように訓練されています。(例えば、「なんという日だ!」という文章は、前後の内容を加味して感情を判定する仕組みです。)

感情分析の応用例

SNSにおける感情分析

SNSイメージ

TwitterやFacebookをはじめとしたソーシャルネットワークサービス(SNS)が発達し、現代の生活になくてはならないものとなりました。そんなSNS上には様々な人が様々な意見を投稿しており、顧客のニーズ把握や反応を知る上での一大ソースとなっています。感情分析によって顧客の反応を可視化し、次のアクションにつなげられます。

2018年に米スポーツブランドのナイキ社では、米国における人種差別に抗議してアメリカンフットボールの試合前の国歌斉唱における起立を拒否したことで話題となったコリン・ケーパニック選手の広告起用を発表しました。Twitterの反応として当初はネガティブな声が大きく、ナイキ社商品のボイコット運動にまで発展しました。しかし実はそれ以前からナイキ社に対してポジティブな声も多数あり、別の広告を打ち出した結果、オンラインでの売り上げは減少するどころか上昇しました。一見否定的なコメントが目に付く状況でしたが、それ以上に肯定的なコメントを浮き彫りにし、否定的なコメントも参考にして次の広告戦略を考案したといいます。

実践例

実は感情分析は誰でもできる手軽なプラットフォームもあり、簡単な感情分析であればすぐに実行できます。例えば、膨大なソーシャルメディアを検索し、検索語をキーワードとしてポジティブ・ネガティブ・ニュートラルな反応がどれくらいあったか、定量的・定性的なレポートとして返してくれるプラットフォームが存在します。

こちらの写真は、Social Searcherという無料のツールを使用し、”Natural language processing”(自然言語処理)をキーワードとして感情分析を行った結果の一部です(筆者調べ)。緑がポジティブ、橙がネガティブ、灰色がニュートラルな感情に対応しており、メディアごとにコメントの数やその性質をまとめるプラットフォームです。

本分析による示唆の一例として、自然言語処理に対して肯定的な声の割合が大きいのはFacebookやTwitterよりもYoutubeかもしれないから、関連プロダクトやサービスのプロモーションには動画を使用したほうがアプローチしやすいかもしれない、などが考えられます。

従業員分析

会議イメージ

顧客体験がどれだけよくても、従業員がいなければ組織として成り立ちません。感情分析は従業員の声を定量的・定性的に分析できます。例えば、彼らが所属している仕事や組織に対しどのような感情を持ち、なぜそう思うのか、を中心に問いかけ、従業員から結果を得て定量的・定性的に示します。組織・配置上の示唆などを人事や経営層に提示し、結果業務効率化や業務環境改善などの施策案につながるかもしれません。

実践例

分析グラフ

引用:”How Sentiment Analysis Improves Employee Engagement in Healthcare”
https://www.wootric.com/blog/how-sentiment-analysis-improves-employee-engagement-in-healthcare/

米国や欧州など7か国に進出しているWootric社によると、Fortune100にも掲載されているヘルスケアの会社は、あるプラットフォームを使用して、従業員アンケートとレビューサイトのコメントを分析しました()。各コメントに対してカテゴリごとにポジティブ・ネガティブ・ニュートラルの感情を付け、タグごとやポジションごとなどの分類を元に分析を行い、プロジェクトの配置や優先順位を転換して従業員の満足度を高めたといいます。また本分析は離職や情報漏洩などのリスク防止につなげるためのアクションを考えるのにも役立つでしょう。

まとめ

感情分析は組織に不可欠な顧客のすべての声を拾い、潜在的ニーズまでアプローチすることが可能です。また組織の中に目を向けると、従業員の満足度を定量的・定性的に拾うことができ、次のアクションにつながります。

株式会社キーウォーカーでは、自然言語処理プラットフォームを展開し、教師データの作成から分析・可視化まで一通りのサービスを提供しています。本記事で紹介した感情分析を活用し、ビジネスにおける意思決定の一助になればと思います。

次回連載では、テキスト中の固有表現抽出を取り扱います。

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自然言語処理モデル「BERT」を用いたECサイトレビューデータの感情分析
自然言語処理モデル「BERT」を用いたECサイトレビューデータの感情分析(エンジニア向け)

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