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第五回 質問回答・対話~チャットボットに見る可能性~

第四回では、文章の内容を機械が要約して返す機能である自動要約について、活用事例と、2020年に開発されたばかりの最新アルゴリズム「PEGASUS」を紹介しました。本記事では連載最終回として質問自動回答や対話応答のタスクについて、チャットボットを通じた技術・事例両方の側面から取り上げます。

チャットボットとは

人間に代わり入力に対し質問自動回答・対話という自然言語処理タスクを行います。その内容や構造によって、次の2種類に大別されます。

①AI-based chatbot: Echo(Amazon社)やSiri(Apple社)など、日常的に使用している方もいらっしゃるのではないでしょうか。「Alexa、7時に目覚ましかけて」「Hey Siri、クラシック音楽をかけて」というアレです。これらは音声認識というプロセスを経て、自然言語処理の中でも固有表現抽出文章分類によって入力された文章および文脈を理解し、回答を試みます。長期的に多様な種類の入力に対し柔軟な回答をさせたい場合に向いていますが、事前学習が必要でコストもかかるうえ、文脈にそぐわない回答をしてしまうこともあります。

②Rule-based chatbot: 「どのような問題でお困りでしょうか?」→「パソコンの不具合」→「パソコンですね、どのようなエラーでしょうか?」との例のように、典型的な質問を階層構造にしています。回答に対する次の質問の内容が決まっていることが特徴です。FAQs(よくある質問)など一定のデータを持ち、その対応のみを行うなど、対話範囲が限定される場合に優れていますが、ルールに定められていない文章を入力した場合は回答が難しいとされています。(※活用事例は以下コラム「車の販売自動化」を参照ください。)

用途や企業の内部データ、目的や費用などによる使い分けが一般的とされ、必ずしもAI-based chatbotが良いというわけではありません。実際、カスタマーサービスや問い合わせ・ウェブページ誘導などで特にRule-based chatbotを用いた事例も多いです。本記事では自然言語処理を取り扱っていますので、AI-based chatbotを効率的に利用している事例を紹介します。

チャットボットを用いた応用事例

顧客の流入チャネル開拓(AI-based chatbot)

Domino's anyware

ドミノピザ社はピザの配達において「Domino’s Anyware」という名前のチャットボット(Domino’s AnyWare (dominos.com))を11のチャネルで展開しています。Facebook MessangerやTwitterなどのSNSだけでなく、車の音楽プレーヤーやテレビ、Alexaなど、日常生活の機器と結びつけ、いつどこからでも手軽にピザの注文ができるように設計されています。ボタン選択や音声認識、テキスト入力による言語理解などの仕組みを取り入れています(図)。手持ちのアプリやプラットフォームに本チャットボットをリンクし、いつ、どこからでも簡単な操作で、ピザの宅配・引き取りに対応しています。

Facebook MessangerにおけるDomino’s Anyware使用図
(図: Facebook MessangerにおけるDomino’s Anyware使用図。残念ながら日本ではまだ使用できません!)

様々なチャネルに対応させた結果、少なくとも50万回の利用を数え、2015年の第三四半期は昨年同時期比10.5%以上の売り上げを得たといいます。また本チャットボットを含めたインターネット経由の売り上げが全体の50%以上となり、同社が目標とするDX(デジタルトランスフォーメーション)も進んだといいます。


車の販売自動化(Rule-based chatbot応用事例)

米国のCarLabs社は自動車販売の複雑なプロセスを自動化しようと、製品紹介・販売に特化したAIチャットボットを設計しました。特定メーカーの製品の詳細なデータを階層化し、質問と回答をテンプレート化することで、必要なデータに素早くアクセスできます。最新の製品知識を備え、あらゆるニーズにいつでも応えられることに加え、競合や好みのカスタマイズを取り込むことで、自動車というコンテンツに対応したデータを提供できます。

Shopping SmartChatのイメージ (出典:Home | CarLabsより、Shopping SmartChatのイメージ。注文や精算はもちろん、馬力やエンジン構造など詳細なデータが手に入り、他の車と比較できる。ボタンを押すことで必要な情報を取得できる。)

チャットボットの導入により、コールセンターの規模を半分に縮小でき、経営効率化につながりました。顧客体験についても、21%のユーザーが見積もりや成約など、より利益を発生させる行動を起こし、顧客の定着率も高まりました。チャットボット経由で車の製品ページに5分以上滞在する顧客の割合は、検索経由に比べ50%以上も上昇したそうです。

(※詳細はCarLabs is transforming the car sales process with chatbots (aimultiple.com)をご覧ください。)

IoTとも親和性が高く様々な種類のAI-based chatbot。では、AI-based chatbotがどのような仕組みで言語を理解し、未知の単語を含む多様なニーズになぜ対応できるのか、言語モデルを中心とした技術的側面を簡単にご紹介します。

AIの質問応答を支える言語モデル:GPT-3

GPT-3イメージロゴ

LINE株式会社は2020年11月、日本語に特化した大型の自然言語モデルの開発とそのインフラ構築に着手したと発表しました。これまでの日本語に特化したモデルでは、対話や質問応答など個別の状況に応じて自然言語処理エンジニアが個別に学習させる必要がありました。しかし本モデルによって質問応答はもちろん、対話やコーディングなど柔軟な文章形態に対して、あたかも人間が書いたかのような自然な文脈に沿った文章生成が可能となります。現在同様の技術を使用したモデルは英語のみが商用化されていますが、本モデルの開発によって日本語でも英語と同水準の精度を確保でき、日本語AIの利用可能性の著しい向上が期待できます。

この汎用言語モデルの一つとして、OpenAI社によるアルゴリズム“Generative Pre-training 3”(以下”GPT-3”)が知られています。GPT-3は新聞などの言語データを学習させた言語モデルを構築の上、文脈設定のための学習(Few-shot learning(※1))を行う汎用言語モデルです。事前に大容量のデータからなる言語モデルを学習しておくことで、新しい単語や文章を入力した際に通常機械学習で必要な追加学習(Fine-tuning(※2))を行わず、既存言語モデルからFew-shot learningを行い、文章を生成します。本モデルの開発にあたり、LINE株式会社はのべ100億ページ以上もの言語を事前に学習させると発表しています。

GPT-3は2020年に開発されたばかりであり、アプリケーションへの応用やコスト削減など様々な発展を遂げています。GPT-3をはじめとした汎用言語モデルによって、本記事で取り上げた質問応答チャットボットにおける回答の精度向上だけでなく、顧客のニーズを予測して提案する機能やトラブルシューティングを自動で完璧に行う機能など、人間と同じくらいかそれ以上の価値を速いスピードで提供できる未来が来るでしょう。

(※1)Few-shot learningでは、文章の書き出しやお題などを与えることで、これまで学習した言語データの中でそれらしい文字列を返します。即ち、入力された文章に対し、それに続く言葉を推測できます。「今日の天気は」→「晴」「曇り」などが続く可能性が高く、「は」「ケーキ」等の単語が続くことはかなり稀ですよね。これを繰り返していき、たった数行の入力だけで、自然な長文を生成できます。

(※2) 通常AIが単語・文章を追加で学習する際、既存のモデルのパラメータを微調整して新しいモデルを構築します。これをFine-tuningといい、既存のモデルを構築しなおすため時間と費用がかかります。

(詳細は元論文:[2005.14165] Language Models are Few-Shot Learners (arxiv.org)をご覧ください。)

まとめ

質問回答機能を搭載したチャットボットによって、新しいチャネルを開拓し、見込み顧客が増加した事例を紹介しました。また、顧客の抱える課題に素早く回答を施し、顧客体験の向上につながった事例も存在します。GPT-3も開発・発展途上であり、これから様々な活用の可能性が見いだされます。必要に応じて導入を検討するに値するでしょう。

株式会社キーウォーカーでは、自然言語処理プラットフォームを展開し、教師データの作成から分析・可視化まで一通りのサービスを提供しています。弊社では例えばコールセンターやカスタマーサポートにおいて問い合わせの分類・回答の自動化により業務効率化を実施したプロジェクトなどを実施しています。チャットボットの導入や利活用をお考えであれば、お気軽にお問い合わせください。

自然言語処理に関する連載は本記事をもって終了します。AIやテクノロジーがもっとビジネスに利活用され、新しい価値の創出を祈念し、筆を置きます。ご愛読いただき、ありがとうございました!

参考

Rule-Based Chatbots vs. AI Chatbots: Key Differences (hubtype.com)

Domino’s AnyWare (dominos.com)

Domino’s AnyWare – The Shorty Awards

CarLabs is transforming the car sales process with chatbots (aimultiple.com)

LINE、NAVERと共同で、世界初、日本語に特化した超巨大言語モデルを開発 新規開発不要で、対話や翻訳などさまざまな日本語AIの生成を可能に | ニュース | LINE株式会社 (linecorp.com)

出展論文

[2005.14165] Language Models are Few-Shot Learners (arxiv.org)

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