2019/11/13 著者: 山本 喜士朗

グローバルサプライチェーン考察 Part.1はこちら

企業にとって、安定的な事業運営や業績の拡大は常に大きな課題と言えます。

例えば、製造業では、安定的な製品供給のために、資材や部品の安定的な調達のための情報収集は、必須の機能となっています。前回紹介したアップル社などの大企業のみならず、国内の中堅企業であっても、調達先やマーケットが世界中に広がっており、地球上で起こる様々な現象が自社の運営に影響を与える時代となっています。

災害やカントリーリスクなどにより原材料が調達できないために、仕入先の部品供給が止まったり、海外の生産拠点のトラブルなどが起こることで、人気商品の生産ができず販売機会を逸するなどの状態に陥らないためにも、常に広く情報をモニタリングする必要があります。

災害やカントリーリスクによる影響

出展:The role of insurance is global supply chain risk management

また技術革新も今までにない速度で起こっており、競合企業の状況変化や自社製品に活用できる新しい技術の開発などの情報も、常にウォッチしておく必要があります。

一方、原材料や部品類を提供するBtoB市場においても、「自社の製品がどのように活用されているのか?」「自社の製品を活用できる企業はないか?」「自社の業績を左右するマーケットの動き」などのための情報収集と整理は必須となっています。

現在ではインターネットに様々な情報が発信されるようになり、また世界中のニュースをリアルタイムに閲覧することが出来るようにもなりました。加えて AI の発展とともに、ほとんどの言語を機械翻訳することができ、ニュースのアウトラインも簡単に掴むことが可能です。

インターネットとの付き合い方が企業の将来を左右する!?

インターネットから得られる様々なニュースや情報に基づいて事業予測を立てることができれば、投資の無駄を省いたり、事業運営を安定化させたりすることができます。企業にとってこれは理想的な状態と言えるかと思います。

このように便利なインターネットではありますが、便利な反面、発信される情報総量も雪だるま式に増え続けています。一説によると、今世の中に存在するデータの9割は過去2年に生み出されたものだそうです。しかも、これは最近の2年に限った話ではありません。それほどまでに恐ろしい勢いでデータの量は年々増加し続けています。データの総量は2014年から2020年にかけてなんと5倍に増えるそうです。

データ増加量推移グラフ

出展:Global growth trend of data volume, 2006–2020

個人が日常的に使用するデータの大きさを考慮してもこれは頷ける話です。10数年前にガラケーで撮影した画像の多くは一枚1MB以下でしたが、最近のスマートフォンで撮影した画像は一枚5MBを超える大きさで保存されることも多々あります。写真よりもさらにデータ容量が大きな動画データも主流になりつつあります。企業単位でも、センサーやカメラなどといったIoTデバイスが急速に普及しつつあり、これらのデバイスが24時間365日体制でデータを収集し続けているわけですから、データが増えているのはある意味、あたり前の話だと言えるでしょう。

Worldwide Global DataSphere IoT Device and Data Forecast, 2019–2023によると、監視カメラやドローン、ウェアラブルデバイスなどの機器数は2025年には416億台になると言われており、それらのデバイスによって収集されるデータの量は同じく2025年には79.4兆GBになるだろうと言われています。

The Growth in Connected IoT Devices Is Expected to Generate 79.4ZB of Data in 2025, According to a New IDC Forecast
引用元:iotplaybook.com

つまり驚異的なスピードで情報が増えている中で、どんな情報でもいいから入手する、というのは非常に容易いことです。しかし、情報を有効活用するためには、誰が、どんな情報を、どんな状況で、どんな風に活用するのか、というのが鍵となってきます。情報の種類も、有益な情報とそうでない情報の2種類だけではもはや収まらず、真実ではないが拡散力の高いフェイクニュースや噂レベルの話に尾ひれがついて拡散された事実無根のエピソードなど、むしろ手に入れたことによって被害を被る可能性のある情報も大量に出回っています。

情報を有効活用してリスクを削減しよう、とスローガン風にいうのは耳障りもよく、それっぽく聞こえてしまいますが、具体的にどんなことをすれば情報を有効活用している、と言えるのでしょうか?

一つ確かなのは、もはや情報の量は増えすぎていて、人間が目視確認で業務に役立つ情報をキャッチし、その中から取捨選択を行なっていくのはもはや不可能である、ということです。

例えば、東ヨーロッパの政変が部品の供給に影響を与えたり、ドイツの環境規制が自社製品のマーケットを奪ったり、と、その関わり方も複雑化しており、ニュースやマーケット予測などの情報が自社事業にどのように、どの程度の打撃を与えるのかを正確に予測することは困難です。

世界中のニュースを収集・分析
KW NEWSクローラーの問い合わせ

これは昔から言われる「風が吹けば桶屋が儲かる」的な連鎖ですが、現実の世界では風が吹かないことによる打撃もあれば、無事に風が吹いて桶屋が儲かった後の連鎖によって自社のビジネスが影響を被る場合もあります。正確な予測をすることが不可能だったとしても、風が吹きそうであることを知っておく、あるいは、風が吹いた場合に備えておく、風が想定していたよりも強力だった場合の対策をしておく、など少しでもリスクを下げるためにできることは確実にあります。

バリューチェーンを遡り、連鎖の仕組みと自社の立ち位置を理解する

人が一人で生きられないのと同じように、企業も一社のみで生産活動をすることはできません。特に製造業においては、各企業の活動は複雑で多岐にわたる巨大なバリューチェーンの一部として組み込まれているにすぎません。

大企業や社会的インパクトの強い企業などニュースバリューが高い情報は、比較的入手しやすく、その影響をいち早くキャッチアップできます。しかし、業界ニュースや地場産業のニュースなど、目に触れる機会が少ないものの場合、自社にとっては重要な情報であっても日常生活の中でそれらの情報を見つけ出すのは困難です。

膨大な情報の中から自社にとって重要な情報を効率よく得るためには、どこから発信されるどんなニュースがなぜ自社にとって大切なのかを洗い出し、重要な情報がどこから発信されるのかを理解し、それに沿った対策を講じる必要があります。そのためには、自社や競合先のサプライチェーンなどの情報を整理し、キャッチしたニュースをいち早く解析するプラットフォームを作る必要があります。

例えば、アメリカ政府が華為(ファーウェイ)製品の使用を避けることを世界の同盟国に要請した、というニュースが一時期話題になりましたが、自社がファーウェイ製品を使用していた場合でも、サプライチェーン情報を整備することで、ファーウェイがどこから部品を調達し、どこの工場のどんな技術を使って自社が購入していた製品を製造していたのかを把握しておけば、ファーウェイからパーツが購入できなくなったため、自社の製品は作れなくなり、売り上げが立たなくなった、という最悪のシナリオから逃れられる確率は高くなります。

またサプライチェーンばかりでなく、企業の買収や関連などを把握しておくことで、顧客や競合先などが今後どのようなマーケット戦略を行うかなどの予測にも役立てることができます。

有益な情報を得るにはどうすればよいのか?

自社のビジネスの成長を支援してくれる、あるいはリスクを削減してくれるような情報とは?

自社のビジネスを直接的に成長させてくれる情報とは、例えば、価格の違い、です。日本では100円で買えるグッズ、例えば、日本国内であればどの100円ショップでも手に入るような刃先が丸くなっていて怪我をしにくいデザインになっている鼻毛切りバサミが、ドバイやオーストラリア、フィンランドなどの国に行けば1000円で売買されているかもしれません。

つまり、「この鼻毛切りバサミはドバイでは1000円でも飛ぶように売れている」という情報と「この鼻毛切りバサミは日本ではどこの100円ショップでも売られている」という2つの情報を紐づけることができれば、商品そのものは全く変わらないにも関わらず、取引を行う文脈が変わるだけで10倍の価値を生み出すことが可能になるわけです。

では、なぜ日本では100円の価値しかない鼻毛切りバサミに1000円の価値が生じるのか、というのを深掘りしていくと、おそらくいくつかの理由にたどり着くはずです。例えば、鼻の中が傷つきにくくなっているデザインの鼻毛切りバサミはこれらの国では珍しく、入手困難であるため人は1000円でも喜んで支払って手に入れようとする、という理由が見えてくるかもしれません。

それに加えてMade In Japanであるというジャパンブランドにも魅力を感じているかもしれません。ドバイではそもそも1000円という価格が「安い」と認識されているのかもしれません。

世界中のニュースを収集・分析
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この鼻毛切りバサミが10倍の値で取引されていることを知った場合、あなたは大量に鼻毛切りバサミをドバイに輸出するかもしれません。もしその戦略がうまくいけば、それを見ていた他者も鼻毛切りバサミの輸出を始めるかもしれません。

そうなった場合、一年後には鼻毛切りバサミの需要が落ち着き、希少性が薄れたことにより、価格も300円程度まで下がってしまうかもしれませんし、新参のライバル社は日本ではなく中国から同じ製品をより安く仕入れるルートを確立し、商品価値が100円以下に落ちてしまうかもしれません。

価格の上昇と下落

しかし、仮にこの筋書きが予めある程度予測できていれば最初の数ヶ月だけ鼻毛切りバサミを輸出し、それを軸としながらもドバイの市場調査を行い、また別の100円ショップアイテムで売ることに成功するかもしれません。そのうち、日本で1万円のものがドバイでは100万円で売れる、というより利幅の大きい夢のような商材に出会う可能性もあります。

これは極端な例ですが、一つ一つの情報では有益でも無益でもなかったものも、情報と情報を掛け合わせることによって新たな側面を見つけだすことができれば、時としてそれはこのように非常に有益な情報となり得るのです。

もっとも重要なのは『仮説』である

これだけ膨大な情報の中で生活していると、公開されている情報でも見過ごしてしまう情報もありますし、自分の会社やビジネスには大きな影響があっても、世間的な関心が低い場合、いわゆるニュース価値が低い場合は、大きく取りあげられないこともあります。

中には、他国、他言語では大きく報道されていても、日本では全く知られていない情報の場合もあります。いずれにせよ、前述した通り、情報は人の目で見られる規模ではもはやなく、情報単体で有益か否かを判断できるものでもありません。

そこで重要になってくるのが、普段からいかにして事業に関連する情報を集め、活用していくのか、という情報収集システムの確立です。24時間365日、情報は世界各地から際限なく押し寄せてくるわけですから、この情報の波をシステマティックに処理し、業務に役立てるための仕組みは今後ますます重要になっていきます。

この情報収集システムおよび取捨選択の精度が企業の運命を左右することもあります。そして、もっとも重要なのはこれらの情報を集めたあとにいくつかの情報を掛け合わせて立てる仮説です。鼻毛切りバサミの例で言うと、「鼻毛切りバサミは日本の100円ショップで安く手に入る」という情報と「ドバイではこの鼻毛切りバサミが1000円で売買されている」という情報を掛け合わせることで初めて、「日本から鼻毛切りバサミを輸入すれば差額分を利益として手に入れることができるかも知れない」と言う仮説に辿りつけるわけです。そして良質な仮説にたどり着くための土台となるのが「良質な情報」です。

仮説を検証してみた結果、ドバイに輸入する際に非常に高額な関税がかかり、利幅はほとんどないためビジネスとしては成立しない、ということが明らかになる可能性もありますし、現段階ではブルーオーシャンでナイスなビジネスである、という説が裏付けられる場合もあります。同じビジネスモデルが他国でも応用できる場合もありますし、ドバイ以外では機能しないかもしれません。

いずれにせよ、関連性の高い情報を持っていることで仮説の検証を行うことができるようになり、将来の予測を立てやすくなることは確かです。

競合相手が新しい特許を取得していた、あるいは全く違う分野の技術を持った会社を買収した、などまだニュースになっていない、あるいは一般的なニュースとしては価値がさほど高くない情報でも、断片的なその情報のかけらを組み合わせ、ちょうどジグゾーパズルを完成させるように仮説を立て、相手の次の一手を、あるいは自分たちの次の戦略を考える材料にしていくことが今後のビジネスの世界では極めて重要になってきています。

そう考えると、いかに他者がまだ持っていないであろう情報を先に入手しそれを有効活用できるか、というのが今後のビジネスの明暗を分ける鍵となってきます。例えば、人の目では追いきれない業界の情報をクローリングで集めてくる、日本語以外の言語で報道されている業界のニュースや他国の情勢を機械翻訳を使って集める、集められたそれぞれの情報の関連性をAIを使って分析し判定する、など情報の収集、そして有効活用に最先端の技術を取り入れていくことも重要な差別化の方法の一つであると言えます。

理想と現実の間

まだまだ情報を有効活用できていない企業がほとんど

確かに、正確な情報を有効に活用し、ビジネスの今後を予想できるところまでできればそれは理想的な形ですが、将来の予測どころか、現状何が起きているのか、というのすら把握できていない場合の方が多いのが現実です。

もしかしたらドバイの鼻毛切りバサミのケースも、1000円で取引されている理由を探るために鼻毛切りバサミに関するアラビア語の記事を機械翻訳してみると、とあるインフルエンサーが日本の鼻毛切りバサミについてインスタグラムで紹介したことで鼻毛切りバサミの価格が一時的に高騰しただけなのかもしれません。関連が見つけづらい場合がほとんどですが、物事には原因があって結果があります。その隠れた鎖を見つけ出し、先回りすることができればビジネスをより大きく強くすることも可能となるでしょう。

秒単位で変わり続ける世界の潮流の中で存在価値を失わないためには、問題が見えるようになってから対応するのではもはや遅すぎるのです。競合相手の新サービスや新製品をニュースで聞いて初めて知るようでは、そこから挽回するには相当な覚悟と労力が必要となるでしょうし、すでに手遅れかもしれません。

次回の記事は、キーウォーカーが取り組む技術的なアプローチについてご紹介します。

グローバルサプライチェーン考察

No.1 リスクから紐解くピンチをチャンスに変えるための情報活用術
No.2 「ドバイで鼻毛カッターを売る」
グローバルSCにおけるオポチュニティー最大化戦略
No.3 技術の進化
No.4 リスクとオポチュニティのモニタリング

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