本記事は、自社のDX推進において「現場と経営の組織の壁」「データ基盤の不在」「実務の属人化」といった課題に直面しているIT部門・DX推進担当者、実務リーダー、経営層に向けたイベントレポートです。
2026年6月9日に開催された「Dataiku Summit Tokyo」のセッションから、NTT東日本、マネースクエア、パナソニックグループ、横河電機の先進4社をピックアップ。各社がいかにして高い壁を乗り越え、現場主導のアプローチでAI実装を成功させたのか、実践的な取り組みを簡潔に解説します。
イベント概要
本記事は、2026年6月9日に開催された「Dataiku Summit Tokyo」の各セッション内容をもとに構成しています。弊社社員が現地(東京ミッドタウン ホール&カンファレンス)へ参加し、最新技術やデータ利活用事例を取材しました。
開催日: 2026年6月9日
開催場所: 東京ミッドタウン ホール&カンファレンス
詳細アジェンダ: https://meet.dataiku.com/dataiku-summit-tokyo-20260609/
【NTT東日本】トップダウン×草の根の融合!2万超のAIアプリを生んだ組織変革
セッション名: 経営と現場が一体となる挑戦 NTT東日本のAIファースト企業への変革
登壇者: NTT東日本株式会社 執行役員 山名 紀 氏
【直面した壁】現場の力だけでは壊せない「組織の壁」
通信ビジネスで蓄積された大量のデータを持つNTT東日本ですが、現場の実務担当者だけでは抜本的な改革を進めるための「組織の壁」が存在し、ブレイクスルーが難しい状況でした。
【変革の戦略】トップと現場を繋ぐ「iX」プロジェクトの始動
そこで同社は、全社プロジェクト「iX」を始動し、役員をアサインするトップダウンと、現場150拠点での草の根活動(ボトムアップ)を掛け合わせたアプローチを採用しました。単なる生産性向上ではなく、顧客価値(CX)と社員体験(EX)の向上を目標に掲げています。
【生み出した成果】2万以上のAIアプリ稼働と強固なガバナンス
業務とAIの双方を理解する「ビズ人材」の育成や、柔軟なAI活用基盤の開発を推進しました。さらに、ソフトウェアセキュリティの国際的な非営利団体であるOWASP(Open Worldwide Application Security Project)が提唱する、AIエージェント特有の10大リスクをまとめたガイドライン「Agentic Top 10」を参考にし、「エージェントの暴走防止策」などAIガバナンスの強化を展開しました。結果として、自社基盤上で1万以上(Copilot等を含めると2万以上)ものアプリが開発・稼働する圧倒的な成果を上げています。
【マネースクエア】「規制対応」を逆手に取る!スピードPoCで現場を動かしたデータ基盤構築
セッション名: 規制対応から始まり、現場に届くまで ── Dataikuで変えたデータ活用の記録
登壇者: 株式会社マネースクエア 取締役 IT部長 伊奈 正剛 氏
【直面した壁】「ふるまい検知」の重圧と分散するデータの壁
資産運用サービスを展開するマネースクエアでは、金融規制(AML:ふるまい検知等)への対応が急務でした。しかし、社内データは分散しており、AI活用のためのデータ基盤が存在せず、コストや専門人材不足といった制約を抱えていました。
【変革の戦略】制約下を駆け抜けたDataikuによるスピードPoC
同社はAI/MLプラットフォーム「Dataiku」を導入し、少ない工数かつ自社主体でスピーディにPoC(実証実験)を推進しました。
【生み出した成果】規制対応の枠を超えた全社データ活用への飛躍
目的であったAML対応を完了させただけでなく、顧客のSNSデータ活用やコールセンターでのAI要約など、データ活用の高度化を同時に実現しました。基盤整備が短縮されたことで、現場が仮説検証のサイクルを回しやすくなり、全社的な業務効率化へとつながっています。
【パナソニックグループ】AIエージェントが切り拓く設計実務の「脱・属人化」
セッション名: 製品の品質改善のためのデータ蓄積とAIエージェントとDataikuの活用
登壇者: パナソニックインダストリー株式会社 デバイスソリューション事業部 鈴木 一也 氏 /パナソニックホールディングス株式会社 モノづくりDX技術部 原 伸也 氏 / パナソニックホールディングス株式会社 技術課 椛島 基嵩 氏
【直面した壁】少数精鋭がゆえに陥った「属人化」と抜け漏れリスク
パナソニックグループにおける電子デバイス製造のプロセス設計は少数精鋭で行われており、極めて属人的な体制による地方拠点での後継人材不足が課題でした。また、設計の作り込み(FMEA)や文書間リレーでの情報抜け・転記ミスの防止が求められていました。
【変革の戦略】AIエージェントを活用した設計プロセスの再構築
この「属人化の壁」を打ち破るため、同社はDataikuとAIエージェントを活用し、業務プロセスに適合したデータ基盤を構築しました。設計情報をデータベースとして扱い、IDを付与することで文書間の連動を実現しています。
【生み出した成果】「10秒で回答・30秒で出力」が導く脱属人化
FMEA帳票作成においては、過去のトラブルを検索して約10秒で回答、30秒程度で出力できるプッシュ型のAIインターフェースを実装。属人化を解消し、大幅な業務効率化を推進しています。
【横河電機】「使われない中央集権AI」からの脱却!現場の“実験文化”が意思決定を変える
セッション名: 不確実性下のIT戦略:横河電機がDataikuで実現する、現場発のAI活用とスピードIT実装
登壇者: 横河電機株式会社 デジタル戦略本部 山下 純子 氏
【直面した壁】中央集権型AIの限界と「使われないシステム」の危機
予測不能なパラダイムシフトが起こる時代、横河電機は従来の「失敗回避」のアプローチが環境変化への適応を阻害していると考えました。また、中央集権型のAI開発では要件定義の間に前提条件が変化し「現場で使われないシステム」になるリスクがありました。
【変革の戦略】「記録するIT」から「意思決定するIT」へのシフト
そこで同社はDataikuを活用し、「記録するIT」から「意思決定するIT」への変革を推進しました。オペレーション、データ、組織の「3つの柔軟性」を高め、現場が自ら試行錯誤できるガードレール付きインフラを公開する「現場主導型AI」を選択しました。
【生み出した成果】早く失敗し、素早く適応する「実験文化」の醸成
現場自らが作り、早く失敗して軌道修正する「実験文化」を醸成することで、属人的な知識を自律型組織のナレッジへと自然に転換させることに成功しています。
所感
AIやデータ基盤の導入はゴールではなく、「現場の組織文化を変革するためのスタートである」と強く実感しました。
横河電機様の「実験文化への移行」や、NTT東日本様の「トップダウンと草の根活動の融合」は、多くの企業が抱えるDX推進の悩みの核心を突いていました。また、マネースクエア様やパナソニック様のように、目の前の切実な課題解決を起点とし、結果的に全社的なデータ基盤へと育て上げるプロセスも非常に参考になりました。
AIを一部の専門家のものではなく「現場全員の意思決定ツール」にするためには、現場主導で小さな成功や失敗の体験を積み重ねることが重要だと学べる、大変有意義なイベントでした。
まとめ:成功の鍵は「現場のエンパワーメント」
これら4社の事例から共通して見えてくるのは、規制対応や属人化解消といった明確な課題を出発点としつつも、「現場が主導してAIを試行錯誤できる環境」を整備している点です。
柔軟なプラットフォーム(Dataiku等)を導入してデータ基盤を整えることは、当初の目的を達成するだけでなく、現場でのスピーディな仮説検証や副次的なデータ活用を生み出しています。AIを中央集権的なシステムとするのではなく、失敗を許容し素早く検証するサイクルを現場に根付かせることが、不確実な時代にDXを加速させる最大の鍵となるでしょう。
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