今回から3回に分けて、AIを活用した新時代のSTP分析についてご紹介します。AIで主観や経験則に頼った従来の戦略から脱却し、どのように客観的なデータから「勝てる勝機」を炙り出すのか。市場の歪みを見つけ出し、競合を置き去りにするための具体的なステップを解説します。
STP分析とは:現代マーケティングの羅針盤
STP分析とは、近代マーケティングの父として知られるフィリップ・コトラーが提唱した、マーケティング戦略の基礎となるフレームワークです。以下の3つの頭文字を取ったもので、市場における自社の優位性を明確にするために用いられます。
- S:Segmentation(セグメンテーション) 膨大な顧客が存在する市場を,似たニーズや属性を持つ集団ごとに細分化するプロセス
- T:Targeting(ターゲティング) 細分化したセグメントの中から、自社の強みを最も活かせる、あるいは未充足のニーズが高い特定のターゲットを選定
- P:Positioning(ポジショニング) 選定したターゲットの脳内において、競合他社とは異なる「独自の立ち位置」を確立すること
情報が溢れ、顧客の価値観が多層化した現代において、このSTP分析は単なる情報の整理術ではなく、限られた経営リソースをどこに集中させるべきかを決定する「戦略の羅針盤」としての役割を担います。
しかし、従来のSTP分析は、往々にして分析者の主観や経験則に依存し、「都合の良い解釈」に陥ってしまうという罠を抱えていました。本記事では、このSTPの第一歩である「セグメンテーション」を、AIによって客観的かつ高精度にアップデートする方法について詳しく見ていきます。
属性ではなく「個」の深掘りへ
「自社のターゲットは30代の働く女性だ」——戦略会議で繰り返されるこの言葉に、どれほどの勝機があるでしょうか。
かつてのように、性別、年齢、居住地といった「デモグラフィック属性」で市場を区切れば顧客の顔が見えた時代は、すでに過去のものとなりました。 価値観が極限まで多様化した現代において、属性という「外側の器」だけで顧客を理解しようとすることは、もはや機能不全に陥っています。
例えば、同じ「30代・都内住み」という条件に合致する二人を想像してみてください。
- タイパ(タイムパフォーマンス)を重視し、機能的で無駄のない生活を求める合理主義者
- 高くても長く使える「サステナビリティ」や特定のコミュニティへの所属意識を大切にする情緒的な価値観を持つ
この二人に同じ広告を配信しても、どちらか一方、あるいは両方の心に響かないのは明白です。 顧客が真に反応するポイント、「熱量」が宿る場所は、もはや属性の中にはありません。
このように実態と乖離した「願望混じりのセグメント」に向けてマーケティング予算を投下し続けることは、穴の開いたバケツで水を汲むようなものです。 主観的な分類による「無駄なコスト」を排除し、顧客の真のインサイトを捉えるためには、データに基づいた客観的なアプローチへと舵を切る必要があります。
ここからは注目のAIプラットフォーム「Dataiku」をモデルケースに、戦略を具現化するアプローチを深掘りしていきます。
AIによるクラスター分析が顧客像を再定義する
従来のセグメンテーションが「担当者の色眼鏡」を通した分類だったとすれば、AIによる分析は「市場のありのままの姿」を映し出す鏡といえます。Dataikuを活用したクラスター分析は、以下の3つのアプローチで顧客像を鮮やかに描き出します。
1. 先入観の完全な排除
ホワイトボードの前で「自社のターゲットはこうあるべきだ」と議論する際、そこには無意識のうちに主観や経験則、あるいは「こうあってほしい」という自社に都合のよい願望が入り込みがちです。
Dataikuのクラスター分析は、こうした人間のバイアスをリセットします。AIは先入観を持たず、膨大なデータの中から純粋に統計的な類似性のみに基づいて「似たもの同士」の集団を抽出することで、人間が思いもよらなかった「真の顧客グループ」が浮き彫りになります。
2.「感情」までをも飲み込む多次元データの統合
Dataikuの真価は、売上金額や購入頻度といった数値データ(構造化データ)だけでなく、SNSの投稿やレビュー、カスタマーセンターのログといったテキストデータ(非構造化データ)を統合して解析できる点にあります。具体的には、NLP(自然言語処理)を用いてテキストから顧客の「期待」や「諦めを伴う不満」といった感情の機微を抽出し、定量的なスコアへと変換します。定量化された感情データを分析モデルの変数に加えることで、数値だけでは見えてこない顧客インサイトの把握を可能にします。
例えばアパレル業界であれば
- 「トレンドへの期待感」が高いクラスター
- 「メンテナンス(洗濯)への不満」が強いクラスター
など、数値データだけでなく顧客の心理的な起伏を「分類の軸」に据えることで、より解像度の高いセグメンテーションが可能になります。
3. ニーズの「密度」と「空白」の可視化
分析結果をマップ化すると、市場のどこに顧客が密集しているのか、その「密度」が可視化されます。
ここで注目すべきは、顧客の強いニーズや不満が集中しているにもかかわらず、既存のブランドがアプローチできていない「密度の低いエリア」です。
これこそが、攻めるべき「空白地帯(ホワイトスペース)」の正体です。誰も満足な解決策を提示できていない聖域を一目で把握できることは、マーケティング責任者にとって何よりの武器となるはずです。
※この部分については「競合に勝てる「空白地帯」はどこだ?AIが描くポジショニングマップの新常識」にて詳しく解説いたします。
分析をマーケティング現場で「内製化」する
これまでの高度なデータ分析は、専門のデータサイエンティストに依頼するか、外部のコンサルティング会社に外注するのが一般的でした。しかし、Dataikuの登場により、その常識は塗り替えられようとしています。
ノーコードでの実行と民主化
Dataiku最大の特徴は、視覚的に分析プロセスを組み立てられる「ビジュアルレシピ」です。 特筆すべきは、数クリックで高度なアルゴリズムを適用できるその手軽さ。専門的なコーディングは一切不要です。 これにより、データサイエンスが「一部の専門家だけのもの」から、現場のマーケターが自由に使いこなせる「身近な武器」へと変わります。
分析サイクルの圧倒的な高速化
これまで数週間から数ヶ月を要していた分析レポートの待ち時間は、Dataikuによる内製化で「数日」単位へと短縮可能です。トレンドの移り変わりが激しい今、手元のデータを鮮度が高いうちに意思決定へ繋げられる体制は、他社にはない強力な競争優位性をもたらします。
リアルタイムな市場への適応
内製化の真の価値は、分析結果に基づいた施策を即座に実行し、その反応を再び分析にフィードバックできる継続性にあります。新機能のリリースや競合の動向、インフルエンサーの発言ひとつで揺れ動く市場の地殻変動をリアルタイムに察知し、セグメンテーションを更新し続けることで、常に「今の顧客」に最適化されたアプローチが可能になります。
結論:AIによる客観性が「勝てるセグメンテーション」を実現する
「自社の顧客はこういう人たちだ」というマーケティング責任者の直感や経験則は、決して否定されるべきものではありません。しかし、変化の激しい現代において、主観だけに頼った意思決定は、組織を迷走させ、多額の予算を浪費するリスクを孕んでいます。
Dataikuを活用したクラスター分析は、バラバラに存在していた膨大なデータをつなぎ合わせ、あなたの「直感」を「誰もが納得せざるを得ない客観的な事実」へとアップグレードします。データが示す「勝てる顧客の塊」は、社内調整における強力な根拠となり、組織全体に揺るぎない確信をもたらすはずです。
Dataikuを最大限に活かす、専門家集団「キーウォーカー」の存在
強力なAIツールを手に入れても、それをビジネスの成果に直結させるには、データ収集から分析設計までの高度な知見が必要です。国内屈指のデータ活用支援実績を持つ「キーウォーカー」は、マーケティング責任者の最強のパートナーとして伴走します。
- データの「質」を高めるスクレイピング:AI分析の精度を左右するWeb上の膨大な口コミや競合情報の収集・整形を自動化し、分析の「燃料」を網羅的に提供します。
- ビジネスに直結する分析設計:Dataikuを用いたモデル構築はもちろん、「どのデータを使ってどうセグメントを分ければ勝てるか」という戦略設計を一貫してサポートします。
- 自走できる組織づくり:最終的に自社チームだけでAI分析を回し、PDCAを高速化できるよう、技術継承を重視した支援体制を整えています。
競合が古い属性分類で議論を空転させている間に、AIという武器を手に取り、真実の市場へと踏み出してください。その先には、消耗戦の必要さえない、あなただけの「空白地帯」が広がっているはずです。
※次の記事「STP分析を成功させるターゲティングの新常識|AI予測モデルで勝てる市場を特定する方法」ではSTP分析の第2ステップ「ターゲティング」について解説しています。