「セルフBIからセルフAIへ」 アンドエスティHDが挑む、現場主導のデータ活用と内製化の全貌
導入事例:株式会社アンドエスティHD 様
40を超えるブランドを展開し、国内外で1,600以上の店舗を運営、WEBストア and ST(アンドエスティ)の会員数2,120万人(2025年11月末時点)を超えるファッション企業である株式会社アンドエスティHD様。これまでに「Tableauダッシュボード作成支援」や「Tableau自走支援」など、弊社の各種サービスをご活用いただいてきました。
そして今回はセルフAIを目指すべく、その中核ツールとして「Dataiku」を選定した背景にはどのような狙いがあったのか。また、物流領域での具体的な活用事例や、導入によって得られたコストパフォーマンスについて、DX本部 データインテリジェンス部の上野様と、ロジスティクス企画部の月原様にお話を伺いました。
ーーはじめに、アンドエスティHD様の事業内容と上野様、月原様の業務内容について教えてください。
上野様:
弊社はグローバルワークやローリーズファームなどのファッションブランドにとどまらず、コスメや飲食、雑貨など衣食住に関わるマルチカテゴリーで商品を展開しています。
私はDX本部内にある「データインテリジェンス部」に所属しています。ここはIT・DX系を司る本部の中で、データ活用やAI活用を専門に担当している部署です。 私自身の経歴としては、元々物理学の研究者をしていたのですが、コロナ禍をきっかけに民間企業へ転身しました。その後は一貫してAIやデータの活用を専門としており、現在はアンドエスティHD全体の活用推進に従事しています。
月原様:
私はロジスティクス本部の「ロジスティクス企画部」という部署に所属しています。主な役割は、自社の物流機能を担うグループ会社「アンドエスティ・ロジスティクス」の業務改善や、営業部と連携しながら会社全体のバリューチェーン最適化に取り組むことです。 大学卒業後はアパレル企業に入社し、外資系企業などを経てロジスティクス領域に関わるようになりました。その後、OTC(一般用医薬品)企業での新規事業立ち上げなどを経験し、現在はロジスティクス領域の仕事をメインで担当しています。
AI活用をリードし、プラットフォーマーとしての競争力を高める
ーーまずは、アンドエスティHD様におけるデータ活用・AI活用のミッションについて教えてください。
上野様:
私が所属するデータインテリジェンス部は、グループのIT・DXを司るDX本部の中にあり、データやAIの活用を専門としています。アンドエスティHDは「Play Fashion!」をミッションに掲げ、主に3つの事業を展開しています。
1つ目は、40以上のブランドを持つ「ブランドリテール事業」。企画から生産、物流、販売までを一貫して行う中で、業務効率化や顧客体験の向上にデータを活用しています。
2つ目は、ECモールやメディア運営を行う「プラットフォーム事業」。ここでも顧客体験や従業員の業務支援にAIを用いています。
3つ目は、ブランドを海外へ展開する「グローバル事業」です。
売上高約3,000億円、国内外1,600店舗という規模を持つ我々が、アパレル・ファッションの製造小売におけるAI活用をリードする存在でなければ、プラットフォーマーとしての競争力は維持できないと考えています。
ーー今回、AI・機械学習プラットフォーム「Dataiku」を導入された背景には、どのような課題があったのでしょうか?
上野様:
これまで私たちは、Tableau(タブロー)を用いた「セルフBI」の推進を行ってきました。ITの専門知識がないブランド担当者でも、自分でデータを見て分析できる環境作りです。一方で、AI活用に関しては、我々のような専門部署がスクラッチで開発し、ブランド側に提供するスタイルが主流でした。
しかし、開発スピードや活用の深さを考えると、現場の部署自身がAIを開発・運用するスタイルへの転換が必要です。「セルフBI」から「セルフAI」へステップアップし、AI開発を民主化する。自分たちが欲しいものを、Dataikuをレバレッジにして自分たちで作る。そうした体制を目指して導入を決断しました。
パートナー選定の決め手は「教育体制」と「バックキャスト思考」
ーー導入にあたり、伴走支援パートナーとして株式会社キーウォーカーを選定された理由をお聞かせください。
上野様:
大きく3つの理由があります。
1点目は「セルフBIでの信頼と実績」です。以前からTableauの活用支援をお願いしており、単にモノを作るだけでなく、教育を含めた「体制づくり」を一緒に進めていけるパートナーだと確信していました。
2点目は「Dataikuの専門性」です。我々はAIの知識はあっても、Dataikuというツール自体を扱うのは初めてです。そこに対する知見や支援を期待しました。
3点目は「バックキャスト思考での提案」です。ツール導入にはコストがかかりますので、投資対効果を明確にする必要があります。キーウォーカーさんは、単にPoCの結果だけでなく、「成功した暁にどのような体制になり、どのような未来図を描けるか」という3年後、2年後からの逆算(バックキャスト)で提案をしてくださいました。これが一緒にやっていこうと決めた大きな理由です。
現場主導で挑む「物流センターの入荷予測」
ーー現在、Dataikuを活用してどのようなプロジェクトに取り組まれているのでしょうか。
月原様:
現在は、ECサイト「and ST(アンドエスティ)」の物流を担うB2C向けディストリビューションセンター(DC)における、商品入荷量の予測(フォーキャスト)に取り組んでいます。
店舗向け(B2B)の物流センターではある程度の作業予測ができていましたが、B2C向けセンターにおいては、「いつ・どの商品が・どれくらい供給されるか」という精緻な入荷予測が課題でした。ここを正確に予測できれば、物流費の削減や適切な人員配置が可能になり、お客様への配送遅延も防げます。
ーー具体的にDataikuを使うことで、どのような変化がありましたか?
月原様:
これまではExcelやスプレッドシートでも分析は可能でしたが、膨大な過去実績データを扱い、入荷量に相関する多様な要因を組み込んで予測精度を高めようとすると限界がありました。
Dataikuのようなビッグデータを扱える仕組みを導入したことで、様々な変数を組み込んだトライ&エラーを非常に簡単かつ高速に繰り返せるようになりました。おかげでスムーズに取り組みが進んでいます。
ーー プロジェクトが成功している要因は何だとお考えですか?
上野様:
まず、DataikuというツールのGUIが優れており、修正や試行錯誤が容易であることです。そして、キーウォーカーさんの伴走支援により、走りながら操作を習得できた点も大きいですね。
また、実は以前に私と月原で、スクラッチ開発で別の需要予測モデルを作った経験がありました。そのため、「できたモデルをどう業務に活用するか」という活用の勘所を二人で共有できていたことも成功の要因です。現場業務を熟知している月原がプロジェクトの中心にいることで、実効性の高い予測モデル構築が進められています。
スクラッチ開発と比較して圧倒的なコストパフォーマンス
ーー実際に導入してみて、コストパフォーマンスについてはいかがでしょうか。
上野様:
非常に高いと感じています。以前、同様の予測モデルをスクラッチで開発した際は、約2,000万円の投資が必要でした。しかし今回Dataikuを活用したことで、半年程度で同等の精度を持つモデルが内製で完成しつつあります。
コスト面だけでなく、現場の「使いたい部署」が自ら手を動かし、スピード感を持って「使いたいもの」を作れるようになった点でも、導入効果は非常に大きいと実感しています。
今後の展望:「AIプロダクトマネージャー」人材の育成と領域拡大
ーー最後に、今後の展望について教えてください。
上野様:
今後は「領域の拡大」と「人材の高度化」の2点に注力していきます。
領域に関しては、現在の物流(ロジスティクス)領域での活用を深めつつ、次はマーケティング領域などへもDataikuの活用を広げていきたいと考えています。Dataikuであれば、一度作ったモデルやノウハウを別のプロジェクトにも展開しやすいというメリットがあります。
人材面では、今回の月原のように、現場部門にいながらAIを活用できるキーパーソン、いわば「AIプロダクトマネージャー」のような人材を各部署に増やしていくことが重要です。
AIは何でもできる魔法ではありません。「何ができて何ができないのか」「どう業務に組み込むか」という勘所を押さえ、ビジネス実装を推進できる人材を育成していくこと。これが「セルフAI」を達成し、グループ全体のDXを加速させる鍵になると考えています。
ーーこの度はお時間いただきありがとうございました。引き続きよろしくお願いいたします。
